人的損害における補償範囲
人的損害における補償範囲について
交通事故によって怪我をしたり死亡した場合,人損事故(人身事故)として,事故に起因する心身の様々な損害について補償(損害賠償)を求めることができます。
どのような損害について,補償を求めることができるかを以下に記しています。事故によって,以下のような項目について損害が出た場合,「積極的損害」の項目欄の損害については,領収書があるものは,絶対に領収書を取っておきましょう。電車やバスを使った場合には,いつ,どこからどこまで乗って,いくらかかったのかをメモしておきましょう。
人的損害における損害賠償項目
積極的損害
- 治療関係費(治療費,薬代等)
- 文書料(診断書費用等)
- 付添看護費(入院時に家族等が付添看護した費用)
- 入院雑費(入院期間中の雑費)
- 交通費(通院や付添いのための交通費,宿泊費等)
- 将来の看護費等
- 装具・器具購入費等(車椅子,義歯,義足等)
- 家屋改造費等(障害者向けに家屋や車を改造した費用等)
- 葬儀関係費(葬儀費,墓碑・仏壇費用等)
- その他
消極的損害
- 休業損害(仕事を休んだことによって得ることができなかった収入)
- 死亡逸失利益(生きていたら得られたであろう収入)
- 後遺障害逸失利益(後遺障害を負っていなければ得られたであろう収入)
慰謝料関係
- 死亡慰謝料
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 近親者の慰謝料
各費用の概要
積極的損害
①治療関係費(治療費,薬代等)
治療費(入院費),薬代などについては,原則として,実費全額が賠償対象として認められますが,治療として必要ではないものや相当ではないものについては,認められないこともあります。マッサージ費用や入院の際の個室(特別室)料については,賠償対象として認められるかが争われることも多いです。また,症状固定後の治療費についても争われることが多いですが,原則として,症状固定後の治療費は,賠償対象としては認められません。例外的に,症状悪化を防ぐためなどであれば,認められる場合もあります。
②文書料(診断書費用等)
文書料は,病院に診断書を発行してもらうための費用等のことです。治療費の項目と一括する法律事務所・保険会社も多いです。原則として,実費全額について認められます。この項目が問題となることは,比較的少ないです。
③付添看護費(入院時に家族等が付添看護した費用)
医師の指示や受傷程度・年齢などを考慮し,必要性が認められれば,相当な範囲で認められます。その額については,職業付添人をつけた場合には実費全額,近親者の付添人の場合には,入院の場合,1日あたり5500~7000円程度,通院の場合,1日あたり3000~4000円程度を目安にして,個別的に判断されます。
④入院雑費(入院期間中の雑費)
入院したために必要となった雑費について,相当な限度で認められます。概ね入院1日あたり1500円程度が認定されることが多いです。
⑤交通費(通院や付添いのための交通費,宿泊費等)
被害者本人の通院等に関する交通費は,実際に支出した費用のうち,相当程度の範囲内について認められます。タクシーを使った場合に,使用が相当ではないと判断された場合には,公共交通機関の範囲内で認められます。自家用車の場合には,ガソリン代や駐車場料金等を領収書等に基づいて算定することになります。
⑥将来の看護費等
重度の障害を負った場合に,将来実際に支出されるであろう費用額に基づいて相当額が賠償対象として認定されることがあります。近親者が付添を行う場合には,常時介護の場合で,1日あたり8000程度を目安に算定されることが多いです。
⑦装具・器具購入費等(車椅子,義歯,義足等)
後遺障害により失われた身体機能を補助するための器具などの購入費については,必要かつ相当な内容であれば,認められます。
⑧家屋改造費等(障害者向けに家屋や車を改造した費用等)
重度の障害を負った場合に,日常生活での困難を軽減するため,建物や車を改造した場合,現実に支出した額を限度として,必要かつ相当な範囲内で認められます。新車を買った場合に,例外的に購入費全額が認められた場合もありますが,基本的には,障害者仕様車にするためにかかった差額分のみが認められる傾向にあります。
⑨葬儀関係費(葬儀費,墓碑・仏壇費用等)
葬儀費,墓碑・仏壇費用については,支出額の一部に限定して認められる傾向にあります。実際に高額の葬儀費,墓碑・仏壇費用を支出していたとしても,概ね130~170万円程度を基準に認められるケースが多いといえるでしょう。
⑩その他
その他で,裁判上認められたものとしては,ペットの保管費用,旅行のキャンセル料,引越料,被害者が子供の場合の学習費,保育費といったものがあります。
消極的損害
①休業損害(仕事を休んだことによって得ることができなかった収入)
治療のために仕事を休んだ場合に,収入が減少した額を損害として請求することができます。現実の収入が無い場合,休業損害は認められませんが,主婦の場合には家事労働が金銭的に評価され,休業損害が認められます。
給与所得者の場合には,会社から休業損害証明書を発行してもらい,その金額をもとに損害額を算定します。
事業者の場合には,損害額の算定にあたって問題が起きることが多いです。確定申告で過少申告している場合や無申告の場合に,事実上の所得と大きくずれが生じるからです。この場合,裁判で実際の収入額が申告額よりも多いことが認められれば,「賃金センサス」というデータをもとにして申告額よりも多めの損害額が支払われることがあります。
②死亡逸失利益(生きていたら得られたであろう収入)
死亡した被害者が生きていれば得られたであろう収入相当額の損害を,相続人が加害者に請求することができます。近年,裁判所における算定方法が統一されてきている傾向にありますが,保険会社が提示してくる額は,かなり低めの場合が多いですので,それが妥当な額かどうか,弁護士にご相談ください。
③後遺障害逸失利益(後遺障害を負っていなければ得られたであろう収入)
後遺障害を負っていなければ得られたであろう収入(後遺症を負ってしまったために喪失してしまった労働能力を金額化したもの)についても,損害として請求することができます。有識者の場合,原則として,基礎収入額に労働能力喪失率と労働能力喪失期間に対応する係数を掛けて算出します。まだ就労していない未成年者,主婦や無職者についても,個別の事情を考慮し,損害額が決定されます。
慰謝料関係
①死亡慰謝料
被害者が死亡した際,被害者が一家の支柱の場合には,2700~3100万円程度,一家の支柱に準ずる場合には,2400~2700万円程度,その他の場合には,2000~2500万円程度を基準として,慰謝料額が算定されます。事故後すぐに死亡しなかった場合には,死亡までの傷害慰謝料と死亡慰謝料額を加算された額を基準として,慰謝料が算定されます。
②入通院慰謝料
交通事故により,怪我をして病院に入院,通院した場合には,その期間,回数に基づいて,慰謝料額が算定されます。特にこの入通院慰謝料と後遺症慰謝料は,保険会社の提示額と裁判所基準額(弁護士基準額)で大きく差が出るところですので,保険会社から正当な賠償額が提示されているかどうかは,弁護士にご確認されることをお勧めします。
③後遺障害慰謝料
交通事故により,後遺症が残ってしまった場合には,後遺障害慰謝料を受け取ることができます。詳細は,ホームページ内の「主な部位別,後遺障害慰謝料の相場」をご覧ください。
④近親者の慰謝料
被害者が死亡した場合や死亡に匹敵するほどの重大な障害を負った場合等には,近親者にもその精神的苦痛についての慰謝料請求権が認められます。近親者の範囲は,被害者の父母,配偶者及び子というのが原則ですが,兄弟姉妹についても認められた例があります。