交通事故事例 脳の障害の場合
交通事故による脳の障害(高次脳機能障害)
交通事故,特に歩行者,自転車や単車での事故の場合,倒れたり跳ね飛ばされて地面に叩きつけられたことによって,頭部に外傷を負うことが多いです。このような頭部への衝撃等により,脳が損傷されたために,認知機能に障害が起きた状態を,高次脳機能障害と言います。高次脳機能障害が,交通事故の後遺症として認定されたのは2001年からということもあり,まだまだ後遺症認定の研究が遅れている分野と言われています。
高次脳機能障害として審査対象となるのは?
交通事故後,物覚えが悪くなったとか,判断力が低下したなどという症状があれば,事故によって脳になんらかの影響が出ている可能性がありますが,そういったケースの全てが高次脳機能障害として後遺症認定の対象となるわけではありません。高次脳機能障害の後遺症認定を受けるための高次脳機能障害審査会の審査対象となるためには,以下の項目のいずれかに当てはまる必要があります。
①初診時に頭部外傷の診断があり,初診病院の診断書において,当初の意識障害が少なくとも6時間以上,もしくは,健忘あるいは軽度意識障害が少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例
②経過の診断書または後遺症診断書において,高次脳機能障害,脳挫傷,びまん性軸索損傷,びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
③経過の診断書または後遺症診断書において,認知・行動・情緒障害を示唆する具体的な症状(知能低下,思考・判断能力低下,記憶障害,記銘障害,見当識障害,注意力低下,発動性低下,抑制低下,自発性低下,気力低下,衝動性,易怒性,自己中心的),あるいは失調性歩行,痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経系統の障害が認められる。
④頭部画像上,初診時の脳外傷が明らかで,少なくとも3ヶ月以内に頭蓋内病変(脳室拡大・脳萎縮)が確認されている症例
⑤その他,脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例
以上の項目のいずれかに該当すれば,後遺症認定の審査対象となり,(1)意思疎通能力,(2)問題解決能力,(3)作業負荷に対する持続力・持久力,及び(4)社会行動能力の4つの能力の各々の喪失の程度に着目して,評価が行われます。
後遺症認定のポイント
後遺症認定の際のポイントとなるのは,①脳の器質的病変の原因となる事故による受傷の事実が確認されていること,②日常生活,社会制約に制約があり,その主たる原因が記憶障害,注意障害,遂行機能衣装外,社会的行動障害などの認知障害であること,③MRI,CT,脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されていることで,更に,④事故との因果関係が認められなければいけません。一般的に,脳外傷を伴う高次脳機能障害では,事故直後に最も症状が重く,時間経過とともに改善し,1~2年程度で症状固定すると考えられており,この経過が事故との因果関係を判断する上で重要といわれています。また,MRIなどで客観的に病変の存在が認められない場合には,認定が相当厳しくなるというのが実情です。
【高次脳機能障害に関係する後遺症等級】
等級 |
障害認定基準 |
介護を要する後遺障害 |
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの |
介護を要する後遺障害 |
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの |
後遺障害 |
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの |
後遺障害 |
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
後遺障害 |
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
後遺障害 |
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,服する事ができる労務が相当な程度に制限されるもの, |
12級,14級の認定がされる場合も
もし,高次脳機能障害の認定がされず,上記の等級に該当しない場合でも,12級,14級の認定がされる場合もあります。
その一例として,最近の下級審判例(東京地判平成27年11月10日)では,被害者側からの高次脳機能障害の主張に対して,「脳外傷による高次脳機能障害の医学的判断には意識障害の有無及びその程度・長さの把握と,脳の器質的損傷を示す画像所見が考慮されるところ,事故直後に診察している脳神経外科整形外科医院の診断書等の記録からは本件事故後に意識障害があったことや,外傷による脳出血や脳挫傷は認められず,本件事故により高次脳機能障害を生じたとは認められない」としつつも,「頚部痛,嘔気,めまいについて後遺障害等級14級9号に,外傷後ストレス障害,不眠症,慢性胃炎につき脳の器質的損傷を伴わない精神障害として同14級9号にそれぞれ相当する後遺障害が残り,併せて併合14級相当の後遺障害が残ったものと認められる。」として,後遺障害逸失利益97万4046円(労働能力喪失率5%,労働能力喪失期間10年),後遺障害慰謝料110万円を認定しました。