ダイイングメッセージは証拠になる?~刑事裁判のルール~
推理小説などを読んでいると、殺害された被害者が死亡する直前に犯人が誰かを示唆するメッセージ(いわゆる「ダイイング・メッセージ」)を残すことがあります。
推理小説でのダイイング・メッセージは、犯人であることを直接示すような記載はされず、そのメッセージの解釈が問題となったりしますが、今回は、被害者が「犯人は甲山乙男さん」などと、実際の名前を挙げてメモを記した場合について考えてみます。
このメモは、甲山乙男さんの刑事裁判の証拠となるのでしょうか。
まず、刑事裁判の証拠のルールとして、「書面」は原則として証拠とすることはできません。
書面に書かれたこと(例えば、Xさんが日記に「私はAさんがBさんを殺すのを見ました」と書いたような場合)は、原則証拠とすることはできず、Xが法廷に出てきて直接話をする必要があります。
見間違い等の可能性があるので、Xさんの日記に間違いがないか、法廷できちんと確認しましょう、というのが法律の趣旨です。
ただ、最初の例に挙げたケースでは、被害者の方は既に死亡しています。そのため、法廷に出てきて証言することはできません。
法律は、このような場合、例外的にメモ自体を証拠とすることを認めています。
その条件としては、
- ①その証拠が欠かすことができないほど重要なものであること
- ②その供述が特に信用すべき情況の下になされたものであること
が求められています。
①については、そのダイイングメッセージ以外にはっきりとした証拠がなく、これがなければ甲山乙男さんを犯人とすることができないような場合です。
②は、要するに、誤りが入らないような状況で作成される必要がある、ということです。
どのような場合に「誤りが入らないような状況で作成された」と言えるかは、結局は事案によって異なることになりますが、例えば、
- ①被害者と被告人が旧知の間柄で見間違いの可能性がない
- ②明るい室内や屋外など、犯行当時の状況もきちんと犯人の顔を見られる状況であった
- ③犯行の態様も犯人の顔をある程度の時間見られるような状況にあった
- ④メモを記載したときの状況が不自然でないことを目撃者が証言している
というような場合であれば、証拠として採用されうると思います。
このように、ダイイングメッセージが証拠となるためには、現実にはかなり高いハードルをクリアしなければならない、ということになります。
ただ実際上は、ダイイングメッセージ以外にはっきりとした証拠がないような場合には、裁判所も有罪認定に極めて慎重になるでしょうし、そもそも検察官は起訴しないはずですので、ダイイングメッセージが決め手になって有罪判決になる、というようなケースは、実際にはあまり考えにくいです。