職場外で犯罪行為をすると懲戒解雇は当然か?懲戒解雇の要件について
(事例)
先日、コンビニで500円の弁当を万引きして逮捕されました。
私は大手自動車メーカーに5年間正社員として勤務しているのですが、勤務先からは、逮捕されたことをもって、懲戒解雇すると言われています。
私は解雇されてしまうのでしょうか。
(回答)
このケースでは、懲戒解雇はできないと思われます。
(解説)
従業員を雇う会社は、一般に、企業秩序を乱した者に対して、社内罰として、制裁を与えることができます。
これを懲戒処分といいます。
懲戒処分としては、
- ①けん責(始末書を提出させて将来を戒める処分)
- ②減給(給与の一部をカットすること)
- ③出勤停止(就労を一定期間禁止すること。その間の賃金はカット)
- ④懲戒解雇(会社との雇用関係を解消すること)
などがあります。
①が最も軽く、④が最も重い処分です。
懲戒処分は、企業秩序を維持するための社内罰ですので、原則として私生活上の行為を理由に懲戒処分をすることはできません。
もっとも、これには例外があります。
最高裁昭和49年3月15日判決を引用します。
同判決は、「営利を目的とする会社がその名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼし得ることは当然」としています。
要するに、従業員の私生活上の行為であっても、会社の信用を害する場合には、懲戒処分が認められることになります。
では、どのような場合に最も重い懲戒解雇が正当化されるのか。
この点について、上記最高裁は以下のように述べます。
「①当該行為の性質、情状のほか、②会社の事業の種類・態様・規模、③会社の経済界に占める地位、経営方針、及び④その従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、(当該)行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。」
すなわち、会社の信用に対する影響が相当重大であると客観的に評価される場合に限り、懲戒解雇が有効であるとされています。
このように懲戒解雇が有効とされる場合は、極めて限定されています。
過去に職場外での行為での懲戒解雇が有効とされたケースとして、バス会社の運転手がプライベートで多量に飲酒運転したケースなどがありますが、他にも、セキュリティ会社に勤務する者が自社のセキュリティシステムの弱点を悪用して建造物侵入・窃盗を行った場合、などが考えられます。
冒頭のケースでは、「会社の信用に対する影響が相当重大であると客観的に評価される場合」に該当するとは通常考えられず、解雇は無効となります。
実際刑事事件で逮捕された方で会社から懲戒解雇されるケースはよくありますが、無効な解雇であることも多くあります。
犯罪を行ってしまった罪悪感から泣き寝入りする方も多いと思いますが、その必要はなく、その懲戒解雇が有効であるのか否かについては、きちんと弁護士に相談して意見を求めた方がいいでしょう。